セレナーデ ~智之

「麻有ちゃん、お待たせ。」

温かないたずら心に 一人 微笑みながら 

麻有子の 背中を叩く智之。


麻有子は 驚いた顔で振向いた。
 

「えっ。どこから来たの?」

軽く責める瞳に 智之の笑顔がこぼれる。


子供の頃のように 無防備な麻有子。


そのまま抱きしめて さらってしまいたい衝動を 笑顔で抑える。
 


「車で来るって 言ってくれないから ずっと 駅の方を 探していたのに。」


並んで歩きながら 麻有子は 拗ねるように言う。

心から溢れる愛しさに 戸惑いながら
 

「びっくりした?」

と問いかける。


16年前も こうして 並んで歩いた。



話しながら歩いていると 時間も距離も忘れて どこまででも 歩ける気がした。



麻有子に会った途端に ずっと 離れていたことさえ 忘れてしまう。


まるで 昨日のことのように。


子供の頃の 二人に戻る。



麻有子から滲む空気は それくらい純粋で。



記憶の中の 麻有子そのままだった。
 


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