社長宅の住み込みお掃除係に任命されました
22時の会社
 19時、取引先との会食に出掛ける社長を見送り、私の仕事が終わる。いつも通り退勤した私は、会社から徒歩10分ほどの裏通りにある昔ながらの銭湯に向かう。

 こんな下町の古びた銭湯に、スーツにハイヒールで訪れるのは私くらいだ。でも、そんなことは気にしていられない。私は、ささっと服を脱ぎ、お風呂に入る。

はぁ…… いい気持ち。

大きなお風呂に足を伸ばしてゆったりと()かり、1日の疲れを癒す。

 そうして、20時過ぎに銭湯を後にして、近くのファストフード店に入る。ここなら、ワンコインで夕飯を済ませられる上に、時間を潰すこともできる。私は、ハンバーガーを食べ終えても、そこを出ることなく22時までスマホゲームをして過ごした。

 そして、22時。私はこっそり誰もいなくなった会社へと戻る。うちの会社の鍵は、IDカードと指紋認証だから、何の苦もなく中に入ることができる。私は、更衣室へと向かい、スーツを脱いで部屋着に着替えた。

 着替え終えた私は、会議室奥の仮眠室へと向かう。ここは、繁忙期に徹夜で仕事をする人などが利用する部屋だが、それほど忙しくない今は、全く利用されていない。

 私は、収納扉を開いて、簡易ベッドを引き出すと、上の棚から掛け布団と枕を取り出し、灯りを消して横になった。

 私はいつまでこんな生活なんだろう。見つかったら、せっかく決まった正社員採用も取り消されちゃうかな。それどころか、契約社員としても働けなくなる可能性だってある。

 それはめっちゃ困る。今、職をなくしたら、私は生活することすらできない。

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