【完結】私に甘い眼鏡くん
真剣(ガチ)の文化祭


「売上一位になるぞーーー!」
「おーーー!!!」


文化祭一日目。私たちのクラスは、気合が違った。
これは数日前のある日——


「それじゃあ模擬店何やるか決めるけど、なんか案ある人いますかー」


文化祭実行委員が主体で、文化祭の出し物の話し合いが行われていた。
うちの高校はもともとが商業高校だった名残もあるのか、クラスでの出店は必須。

二日間の売り上げ合計が全クラス一位になると、なんと打ち上げ代五万円分のお食事券がもらえる。
そして二位以下には何もないというシビアな仕様だ。

私たちはその五万で焼き肉に行こうと張り切っていた。仲のいいクラスである。


電球ソーダやアイス屋などコスパの良い模擬店が並ぶ中、なっちゃんはおもむろに立ち上がった。


「みんなぬるいよ! 今年から正門前じゃなくて教室でお店やれるんだよ!?」


彼女の言う通り、例年全クラスが正門前の広場のスペースで模擬店を出店していた。
しかし狭いわりに多くのお客さん(大体生徒の親族や友人であるが、マンモス校なのでそれだけでもかなりの人数)が押し寄せ、前にも後ろにも動くことがままならない。

そこでお客さんの目に留まりやすい正門前は最後の文化祭となる先輩に譲り、余りのスペースは申請したクラスから抽選。
今までの意見もすべて抽選に当選したらかなり低コスパで収益が見込めるものばかりだった。

『教室で模擬店をする』というのはいわばあまりよくない状況というのが共通認識だったが、なっちゃんの意見は逆転の発想で、しかも至極全うであった。


「うちの学校の文化祭は人も多いし展示も多いのに、全然休めるところがないのが良くないのよ。
そしてこの無駄に広い教室、私たちは全校生徒で一番人数が多いから机も椅子もある。ということは——」


なっちゃんは大きく息を吸う。私たちも思わず息を止める。


「やるしかないでしょう!!! 女装メイド喫茶!!!!!」


みんながゴクリと喉を鳴らした。



天才的ともいえるなっちゃんの発想でクラスの女子の士気はだいぶ高まった。
やりたくないと渋る男子も、徹底した女装技術で私たちよりも美少女に仕上げると意気込む女子の熱意にしぶしぶ了承する。


「うちのクラスの武器はずばり、あんたよ!」


文化祭実行委員に代わり指揮をはじめたなっちゃんは、太一を指さしてそういった。
俺? とぽかんとしている彼に男子から冷やかしの声が上がる。


「太一はまず顔がいい」


クラス全員が頷いた。

「筋肉も程よい付き方だし、太ももはパニエで隠せるから問題なし。
あと顔が広いから広報も見込める。太一、頑張ってくれるよね?」


有無を言わさぬ笑顔とクラス中の重圧を受け、はい以外の選択肢がなくなった太一はやけになり、「俺がこのクラスを一位にしてやる!」と期待以上の満点回答。
教室は大盛り上がりだ。


「女子は基本キッチンで、各シフト二人ぐらい男装して執事喫茶も兼ねるか」


もはやなっちゃんは誰にも止められなかった。
男装に抵抗のある女子は少ないのか、特に意義もなく決まる。


「じゃあ今日から衣装作るよ! 誰かデザインできる人いる?」
「はい! 私デザインやりたい!」


手を挙げたのは美術部のゆみちゃん。
天真爛漫な彼女は同じ文系クラスでもよく話す方。漫画家志望で私服もおしゃれだから、きっといい衣装を提案してくれるはずだ。


「じゃあ私とみうが服作り先導しま~す! 人並に裁縫できる人協力して!」


めいちゃんとみうちゃんは演劇部で衣装製作を担当しているらしい。

さしずめアマチュアの中のプロと言ったところだろうか。二人は理系クラスだから決して仲良くはないけれど、心強いということだけはわかる。


「ありがと! 当日男子は絶対毛剃ってくること! 
腕も脚もだからね! 髭なんて厳禁! 今日の放課後から準備進めるよ!」


がやがやと騒がしくなる教室。みんなやる気満々だ。


「それと、当日までうちが女装メイド喫茶をやるってことは絶対に口外しちゃだめ。
あくまで『なにか』をやろうとしているってスタンスで各自SNSで宣伝してね!」


はーいと口々に返事をしたみんなを見て、なっちゃんは満足げに頷いた。

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