あやかしの集う夢の中で

イケメンの転校生

桜介は数学の授業中に教室の窓から空を見ていた。



今日で舞が学校を休み始めて三日になる。



お嬢様で優等生の舞が今までに学校を休んだという記憶が桜介にはなかった。



きっと桜介のその記憶は正しくて、舞は一ノ瀬中学に入学して以来、皆勤賞を続けていたはずだろう。



舞が心配だなぁと桜介は思いながら、ちょっと憂うつなため息をつき、教室の真ん中辺りにある舞の席に目を向けた。



本当ならばあの席に気品が漂う一輪のバラのような舞が座っているはずなのに……。



桜介がそんなことを考えている間にも、3年2組の教室での数学の授業は進み、痩せた五十代の鎌田先生が黒板に因数分解の問題を書いていた。



(舞ちゃんは病欠になっているけど、本当に病気なのかなぁ。

舞ちゃんが学校を休む前の日に、悪い夢を見る話をしていたけど、その夢のせいで舞ちゃんの体調が悪いのかも。

ああ、心配だよ。

心配すぎて、もう何も手につかないよ)



桜介が舞のことを思いながら、舞の席を見つめていたとき、黒板に問題を書き終えた鎌田先生がゆっくりと振り返り、生徒たちに目を向けてつぶやくように話し始めた。



「さっき説明した因数分解の問題です。

えっと、誰に解いてもらおうかなぁ。

それでは春野、前に来てこの問題を解きなさい」



鎌田先生はぼうっと舞の席を見つめている桜介を名指ししたが、先生の話を聞いていなかった桜介はそのことに気づかなかった。



「おい、春野。

春野桜介。

前に来てこの問題を解きなさい」



鎌田先生がもう一度、桜介の名前を呼んだが、それでも桜介がそのことに気づかないでいると、となりの席のカノンが桜介に助け船を出してきた。



「桜介君、鎌田先生が桜介君を指してますよ……。

桜介君……。

桜介君……」



カノンのささやくような声にようやく気づいた桜介がハッとして、鎌田先生に目を向けた。



すると、それとほぼ同時くらいに鎌田先生の雷が桜介に落ちてきた。



「春野桜介、立ちなさい！」



「あっ、はい！」



桜介はわけのわからないまま大きな声で返事をすると、慌て立ち上がり、その拍子に桜介の椅子が倒れた。



そして桜介のそのおっちょこちょいぶりにクラスメイトたちの笑いが起きた。



桜介はその笑い声の中で、ちょっと恥ずかしそうに、ポリポリと頭をかいていた。