あの滑走路の向こう側へ✈︎✈︎✈︎

六、紫陽花の頃


美香が真樹と再会して、半年が経っていた。

同期の唯と一緒の休憩で、
美香はカフェで軽食を取っていた。

「最近、美香、よく東京行くよねー」
「ん?まぁ大学あっちだったから、
 友達とかいるしね」
「ふーん、そのお友達は男?女?」
「男も女も」
「ふーん」

何が言いたげな唯に、
美香は唯のノロケ話に話を振って誤魔化した。

この日も、ディスパッチの予想通り、
雲が下りてきて、到着便がダイバートしたり、
その折り返し便が欠航したりで、
現場はバタバタしていた。

美香達を困らせる霧を消し去ってくれた
恵の雨は、冷たい雨だった。

美香は、仕事帰りに遅くまで開いている
スーパーに寄り、買い物をして帰った。

マンションに着き、階段を登っている時、
車に買物の荷物を忘れた事に気が付いた。

今日、忙しかったもんな、疲れてるわ、と
踵を返した時、雨に濡れた階段で、美香は滑った。

気付くと、階段から落ち、
足が痛くて動けない。
しばらく経てば治るかと待ったが、
痛くなる一方だった。

美香は唯に電話した。
「唯、助けて…」
「何?どうしたの?今どこ?」
「マンションの階段降りてたら、
 雨で濡れてて滑っちゃって、階段から落ちて、
 足が痛すぎて動けない…」
「待って、すぐ行く!」

すぐに車で唯が駆けつけた。
が、職場近くに引っ越した唯も美香も、
最寄りの夜間救急病院が分からなかった。

唯は付き合っている研修医の紘太に電話して、
事情を説明すると、紘太は言った。
「そこからだと、ちょっと遠いけど、
もし友達が我慢できるなら、うちの大学病院来る?」

唯が尋ねると、
「実家も近いし、大学病院の方が、後々助かる」
と美香は答えた。


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