あの滑走路の向こう側へ✈︎✈︎✈︎

九、決意


月日は巡り、
職場では、唯が退職し、
同期も史緒里と二人になっていた。

二人は、行きつけの料理屋で
数日前の事を振り返っていた。

「にしても、こないだの大イレギュラーは
 大変だったね」
「ホント、美香から引き継がれた時は、
 事態を理解するのに、時間かかったわ」

美香はため息混じりに話始めた。

「朝さ、初便の搭乗手続きが締まった後、
 発券カウンターの正面から男性が走ってきて、
 俺はエリート会員だ!乗せろ!ってね。
 ゲートに確認したら、もうドアクローズに
 向かってたからさ、お断りしたのよ。
 そしたらカウンター前で、喚いててさ、
 乗継があるから、絶対乗せろとかってさ」

「うわー、それで?」

「仕方ない、副所長が出てきて、
 羽田の航空交通管制がトラブってるから、
 羽田からの出発便はまだ全便止まってるし、
 多分、次の他社便で行っても間に合う、って
 説明したらさ、二度とお前んトコ使うか!
 って吐き捨てて去ったよ」

「そりゃ朝一から大変だったね」

「いや、ありゃ勝手に騒いでたから、
 なんて事ない、何も処理してないし。
 そっからよ」

「ほう」

「到着便が来ないんだから、
 次便から、全便欠航よね、
 他社便も全部欠航よ、
 もう新幹線に振替えるしかない。
 発券カウンターは払戻の嵐、
 チェックインカウンターも何人で対応したのか」

「ああ、遅番で出勤したら、
 事務所、誰もいなかったわ」

「全社、飛ばないとか、
 もう、そんな事が起こるんだなって」

「経験値、上がったね」

まぁね…と言いながら、
意を決して、美香は話を切り出した。

「実はさ、転職しようかと思ってる」

「えっ?美香やめたら、私、同期ゼロだよ」
「ゴメンよ」

美香の弱気な謝辞に、史緒里は我に返った。
「いやいや、ゴメン、美香の人生だから。
 で、転職って、何するの?」

「骨折してる時、ずっと集札してたじゃん、
 あれで航空券に興味あってね。
 そういう仕事しようと思って」

「えーっと、じゃあ本社の集札センターとか?」

「ううん、何となく求人見てたら、
 外資で、そういう求人あってね」

「外資!…のオフィスなんて、こっちあるっけ?」

「んー、だから東京でね」

「東京?! あぁ、あの彼もいるしね」

「いや、真樹はもう…
 あの後、他の人とも付き合ったし」

「でも、すぐ別れたでしょ」

真樹と比べるつもりはないが、
どの人も、何か違うと思ってしまう美香は
なかなか長続きしないのだった。

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