あの滑走路の向こう側へ✈︎✈︎✈︎

八、頼もしい背中



大学病院に到着し、紘太に電話すると、
紘太は車椅子を押してやってきた。
痛みに顔をしかめながら美香は声を絞り出した。
「唯の彼氏さん、お世話になります、
 上原美香と申します」
「上原さん、初めまして。これは…痛そうですね、
 診察室へ急ぎましょう」

待合室で、唯は白衣姿の紘太を思い出していた。
頼もしい背中だった。

美香が紘太に車椅子を押されて来た。
右足には、痛々しくギプスを巻かれ、
松葉杖を両手に抱えていた。
「足、ヒビ入ってた」
「全治3ヶ月ってトコかな、今日は入院してもらう」

「入院…3ヶ月…そんなに…
 お仕事とか、行けるの?」
言葉を失った唯に、紘太は答えた。
「接客はなぁ…唯、いつも無線持って走ってる
 って言ってたでしょ、それは無理だね」

「いやいや、
 そんなずっと走り回ってる訳じゃないけど…
 ずっと座ってる仕事もあるよ、
 発券カウンターとか、集札とか」
「ずっと座ってるなら、しばらくしたら行けるよ、
 ただ1ヶ月ぐらいは痛みが残るし、
 無理はダメだよ」
「そう」

「今日はもう遅いし、唯も帰った方が」
「そうだね、色々ありがと、
 紘太がいてくれて、心強かった」
「いやいや、気をつけて帰れよ」
「うん、おやすみ…って、まだ仕事か」
「まだまだ仕事だ」

そう言うと、紘太は手をあげて戻って行った。
頼もしい白衣の後ろ姿だった。


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