取り合いは二人のダーリン
良く言えば情熱的。悪く言えばストーカー。気が付けば、そいつはいつも私の視界の中に居座っていた。

次第に行動はエスカレートし、無理矢理に用事を作っては私の体に接近してくるのだ。
いたたまれなくなって随時追い払ってはみるものの、すぐに私の元へと舞い戻って来ては何も無かったかのようにすました顔で収まってくる。

私が本当に好きな相手はこの人ではないのに。

そして月末になった。
この時になると決まって私に近寄ってくる別の男がいる。
その姿を見ると私の鼓動が早くなる。手のひらの上に心臓が乗ってドックンドックンとしている感じだ。

だが、悟られては駄目だ。自然に、そう、自然に振る舞うのだ。頭の中でシミュレーションしてみる。
よし、完璧。

そんなことをやってる間に彼は私の手の届くところまで接近してきた。
私はさっきのシミュレーションを反芻する。

私は自信満々だった。

ところが、私は何を思ったのか、情熱男のところに向かって歩いていた。
男は、私の突然の行動にこぼれんばかりの笑みを浮かべ目がギラついた。そして、調子に乗ると面白くもないギャグを飛ばしてくる。私は、月末男を横目で見ながら、そのつまらない話に「アハハハハ」と派手に笑ってみせる。
情熱男も「ワッハッハ」と勝ち誇ったように大声で笑った。
つまらないギャグは更に連発され続けた。
私は、情熱男の肩に手を置いたりもした。勿論、視線は月末男を捉えたままである。

月末男は、その様子に嫉妬したのか、思惑通りに私の懐に入った。

いつものことだが、満足だった。

しかし、少し時間が経つと、何かと理由を付けては私から遠ざかっていくようになる。
私はいつも引き止めようと必死になるが、貴方は私の気持ちなどお構い無し。
精一杯に右手を伸ばして貴方の肩を掴もうとするが、するりとかわされる。
彼は振り向かない。

小さくなっていく貴方の背中を見つめながらひとしずくの涙が頬をつたう。

貴方は誤解しているのよ。私が好きなのは英世さんではないの。

貴方なのよ、諭吉。

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