精霊の愛し子
 「常習犯でしょ。はぁ、…次また脱走したら王室の精霊使いに頼んで入ってこれないように結界を張ってもらうって前回言ったの、忘れてないよね?」

 呆れ気味に息を吐きながら言う。

 モルティナがここに来たのは一度や二度といった生ぬるいものではない。

 今や常習犯である。

 しかもエリミアと出会ってからは来る回数が以前と比べて格段に増えた。

 「友達とお話しするのに許可が必要なのかしら?」

 仮にも王女だろ、と言ったセリフは普通の人なら飲み込むだろうがエリミアはハッキリと言葉にする。

 「一国の王女が城を黙って抜け出すのはどうかと思うよ。それに友達になった覚えは私にはないよ」

 勝手に話して勝手に吐いて勝手に出て行く女。

 まさに嵐のような女としかエリミアは認識していなかった。

 「大体、貴方には自分が王族であるという自覚が…」

 「ない、とでも言うのでしょう?城の皆からも客人たちからも何度も言われてることよ。耳にタコができるほどね」

 「分かってるなら、どうして軽率な行動をとるの?」

 モルティナは黙り込んだ。

 エリミアは息をつくばかり。

 「森の入り口まで送るから、お城に帰りな。きっと心配…」

 「…!っ誰が心配してるっていうのよ!!」

 モルティナは目に涙を浮かべ叫ぶ。

 「城に戻ったところでまた叱られるだけ。兄様達みたいに褒められたことなんて一度も…っ」

 涙を流すモルティナを励ますでもなくエリミアは言う。

 「当たり前じゃない。今とってる行動が褒められることだとは思えない」

 エリミアは首を横に振った。

 「エリミア…」

 「何も言わずに城からいなくなれば心配はするでしょう。それは王族であれど一般家庭と変わりはないのでは?嫌なことから逃げてるのは別に褒められたことではないよ。賢い貴方なら分かるはずでしょう?」

 モルティナは苦虫を潰したような表情をし俯く。

 「お城の皆さまが貴方を叱るのは貴方に期待してるから。気にかけもしてなかったら叱られもしないよ」

 エリミアはモルティナの後ろ姿を真っ直ぐに見据える。

 「王子様方は嫌なことからも逃げずに努力して結果を出した。だけれど貴方は褒められる努力もせず逃げてるだけ。最初から諦めてるように見える…違う?」

 エリミアがそこまで言うとモルティナは振り返って叫ぶ。

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