寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~
「ここで抱かせて」




月曜日の朝、ふたりは一緒に家を出た。

恋人になろうとも、通勤の眼鏡とマスクは必需品で、完全防備になってから駅へと向かった。

「じゃあ、あとで」

「はい」

晴久の早朝にカフェに寄る日課はなくなることはなく、雪乃も早出の時間を変えることはしない。

ホームに並んでから徐々に距離が開き始め、電車乗ってからは、完全に他人となる。

もちろん職場にも秘密。どちらがそうしようと言い始めたことでもなく、お互いにそうすべきだと思っていた。

燃え上がるふたりの恋は、通勤から仕事中にかけての時間、ぽっかりと空白になる。

早朝のオフィス。

雪乃が一番乗りをしてから二十分後に、岩瀬が出社した。

「おはようございます」

「あ、岩瀬さんおはようございます……」

雪乃はプリンターのインクを取り替えていた手を止め、いつもよりかなり早く出社してきた彼女に挨拶を返した。

教育係は別の社員が担当しているため、これまで岩瀬とあまり話す機会はなかったが、そんな雪乃にも今日の彼女の目は泣き腫らした後だと一目見て分かる。

(岩瀬さん……どうしたんだろう)

タイミングを逃した雪乃は、岩瀬に「どうしたの?」と聞けず、彼女はそのままロッカーへ入っていった。
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