谷間の姫百合 〜Liljekonvalj〜
🥀Kapitel 3

時流に乗って急成長を遂げるシェーンベリ商会の創業者が構えた邸宅の食堂(ダイニングルーム)には、中米から英国に輸入されたキューバンマホガニーを取り寄せて、優美な曲線が麗しいヴィクトリア様式で作らせた、リボン杢の見事な大きなテーブルが備えられている。

ところが、日々の食事でこの一家がそのダイニングテーブルに着くことはない。
当主・妻・息子そして娘のたった四人で使用するにはそのテーブルがあまりにも長すぎて、互いに離れすぎたからだ。

それでも、そんな「距離」の中で黙々と食事を取るのがあたりまえの「貴族」であれば、至極当然の光景だ。

だが、一家にはどうにも落ち着かず、イェーテボリで一番格のあるホテルから引き抜いた料理人がどんなに腕を振るったメニューであっても、その場所では一向に「食べた気」がしなかった。

結局のところ、(ぜい)を凝らした食堂を使うのは、晩餐をともにする客が訪問してきたときだけとなった。

早速、料理人たちが食事の支度をする台所(キッチン)の隣にあった「配膳用」に設けられたさほど広くもない部屋に、ありふれた直線的なデザインのアカマツのテーブルが置かれた。
そして、家族それぞれが四辺のいずれかに腰を下ろし、適度におしゃべりしながら日々の食事をすることになった。


やはり、どれだけ富を得ようとも、彼らは「庶民」であった。

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