谷間の姫百合 〜Liljekonvalj〜
🥀Kapitel 4

グランホルム大尉と婚約した年、たった一週間ほどであったが、リリは彼の生家のタウンハウスがあるストックホルムに滞在したことがあった。

貴族たちの社交シーズンの真っ只中で、彼らに婚約者として「御披露目」される機会でもあった。


その日の晩、シェーンベリの財力をここぞとばかりにふんだんに使った翡翠(ひすい)色のイブニングドレスを纏い、リリは舞踏会へ赴いた。

今シーズンの英国の社交界で一世風靡しているという、全体的には身体(からだ)にフィットしたラインだが、ヒップの部分だけはふっくらと盛り上がったバッスルスタイルの最新デザインだ。

また、そんなシンプルなドレスに合わせた小振りの帽子に、たっぷりと結われた彼女の黄金の髪(ブロンド)が会場となった某伯爵家の大広間(ホール)にある荘厳なシャンデリアの光に照らされて、宗教画に描かれる神話の女神のごとき輝きを放っている。
さらに、帽子にもドレスにもさりげなく散りばめられた(しかし、とんでもなく上質で高価な)金剛石(ダイヤモンド)が彩りを添える。

今夜のリリコンヴァーリェ・シェーンベリ嬢は、たとえ英国のヴィクトリア女王陛下がご臨席の宮廷舞踏会であっても、ほかの英国貴族の令夫人や令嬢たちに遜色のないどころか、間違いなく彼らから羨望の眼差(まなざ)しで見つめられることであろう。


……ところが、ここは英国のロンドンではなく、スウェーデンのストックホルムだった。

< 20 / 67 >

この作品をシェア

pagetop