谷間の姫百合 〜Liljekonvalj〜
🥀Sista Kapitel

「リリコンヴァーリェ嬢、
改めて……あなたにいくつか確認してもいいだろうか?」

珈琲(フィーカ)を飲んで一息ついた大尉が、問いかける。
リリはこっくりと肯いた。

「まず、あなたには、私との婚約を解消してまで添い遂げたいと願う『生まれや育ちに隔たりのない男』はいないのだな?」

「もちろんよ。これから修道女になって一生を神に捧げようと決意している私に、そんな(ひと)いるはずがなくてよ」

彼女はきっぱりと言い切った。


「では、あなたは先刻(さっき)『こんなに生まれや育ちに隔たりのある私たちが婚約したこと自体、誤りだったのでは』『そんな私たちが結婚しても幸せになるどころか、互いに理解わかり合うことすらできない』というようなことを言ったと思うが。
……どうして、そのように思うんだ?」

「あら……そんなの、当然ではなくて?
あなたは高貴な男爵家のHedrande(御子息)で、私は市井(しせい)のしがない新興の商工業者の娘だもの。とても釣り合わないわ」

リリの脳裏には、ストックホルムの某伯爵家で開かれた、あの夏の日の舞踏会のさまがまざまざと甦っていた。

「だから、グランホルム大尉……あなたの隣にはきっと、ヘッグルンド令嬢のような『生まれや育ちに隔たりのない女性』が、ふさわしいに違いなくてよ」

たっぷりと結った黒みがかった栗色の髪(ブルネット)に小振りの帽子をちょこんと乗せ、ヒップの部分がふっくらと盛り上がったバッスルスタイルの石榴石(ガーネット)色のイブニングドレスを生まれながらの気品で着こなし、首元を飾る先祖代々引き継がれた豪華な宝石にも勝るとも劣らないきらきらと輝く榛色(ヘイゼル)の瞳を持つ、あの美しい(ひと)のような……

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