氷の美女と冷血王子
初めての店で
「オイ、本当にここなのか?」

「ああ、いいからついて来い」
タメ口で答え、ドンドン前に進んでいく徹。

「なんなんだ一体」
と文句を言いながらついていく俺。

ここは繁華街の裏通り。
人がすれ違う度にお互い避けなくては通れないような細い道。
一見すると怪しげにも見える店が並んでいる界隈を、高そうなスーツで歩く男2人。
絶対に浮いている。

「なあ、いつもの店でいいよ」
時々向けられる好奇の視線に耐えられなくなり、前を歩く背中に声をかけた。

『行ってみたい店があるんだ』と珍しく徹が誘うからおとなしくついてきたが、進めば進むだけ怪しさが増していくじゃないか。

「本当に大丈夫なのか?」
「ああ、普通のバーだよ」
「しかし、」

徹がここまでこだわるからにはきっと何かあるんだろうけれど、普段の俺たちには縁のなさそうな場所に見えるが・・・

「そんなに警戒するな。もう少しだから」
「ああ」

徹のことだから、心配はしていない。
普段行かないような店なら知り合いに会うこともないし、込み入った話を気兼ねなくするには好都合だ。
でもなあ、

「何があるんだよ。まずはそれを聞かせろ」
それだけ言って、俺は足を止めた。

普段淡々としている徹が、これだけ推すんだからきっと何かあるんだろう。それが知りたい。

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