氷の美女と冷血王子
麗子の過去
「痛っ」
大きめのマグカップを抱え、顔をしかめてしまった。

ッたく、1週間も経つのにまだ痛みが消えない。

突然押しかけてきた女にビンタされ、1発目は驚いただけでなんともなかったけれど、2発目は話している途中にいきなりで避けることもできず、口の中を切ってしまった。
その上ビールまで掛けられて、もう最悪。

「口内炎の薬、あるわよ」
母さんの渋い表情。
「うん」
分かってる。
私も不機嫌な返事になってしまう。

昔から、悔しいことがあると唇を噛みしめるのが癖の私だって、薬くらいは常備している。
でもね、いい加減薬には頼りたくない。
いつも無理して、頭痛薬を飲みながら平気な顔をしているとか、努力なんてしていないふりをしながら本当は徹夜で勉強をしているとか、そういう自分からいつか抜け出したい。そう思い続けて、随分時間が経ってしまった。
いつの間にか、何でもできる完璧な青井麗子ができあがっていた。
本当の私は違う。そう叫びたいのに、それでも演じ続ける自分がいる。

フフフ。
まるでピエロね。
自虐的に笑ってしまった。
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