氷の美女と冷血王子
専務の苛立ち
専属秘書を置くようになって、俺の仕事は格段にはかどるようになった。
いままで時間をとられていた雑務はすべて彼女がしてくれるし、絶妙なタイミングでアドバイスをくれたりもする。
すごいなあ、ありがたいな、そんな思いで仕事に励んだ。

しかし、人間っていうのは愚かな生き物だと思う。
そんな感謝の気持ちも、1ヶ月もすれば慣れてしまう。
ありがたいと思っていた気持ちが当たり前に感じるようになり、失うことに対する不安や不満の方が大きくなっていく。

「ねえ、青井君は?」
会議から戻ってみたら彼女の姿がなくて、秘書室に内線してしまった。

『課長達と打ち合わせに入っていますが』

課長って徹のことだな。
でも、
「そんな予定が入っていた?」

『ええ、本当はもう終わっているはずなんですが、長引いているようでして・・・』
電話の向こうの声が困っている。

「分かった。会議室だね?」
『はい』

そりゃあ打ち合わせが長引くこともあるだろう。
そもそも俺の出た会議が30分近く早く終わったし。
しかたない、1人で仕事を進めておくか。

デスクに書類を広げ、パソコンを開き、この後面会予定の企業の資料を確認する。

あれ?
頼んでいたデータが・・・ない。

どこにやったんだっけ。

「おーい、青井君」
「・・・」

ああ、いないんだった。
困ったな。
後にするか、でもなあ、このデータがないと先に進めないんだが・・・

結局、俺は席を立ち、同じフロアにある会議室へと向かった。
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