氷の美女と冷血王子
麗子の悩み
バタン。
いつもより荒々しくドアが開き専務が戻ってきた。

「お疲れ様です」
「ああ」

あら、不機嫌。

今日は定例の重役会議。
たまたま社長は欠席だけど、副社長以下取締役と事業部長達も出席しての大きな会議のはず。
いつもなら時間も押してなかなか帰ってこないのに、珍しく戻りが早い。
それに、

「ねえ、コーヒーもらえる?」
「はい」

何かあったんだなって思わせる機嫌の悪さ。
普段はわがままで俺様な所もあるけれど、外面だけは異常に良くて特に仕事において感情を表に出すことの少ない専務がここまでイライラするなんてよほどのこと。

その時、
トントン。
「専務っ」

返事を待つことなく入ってきたのは秘書課長。
こちらも随分と焦っている。

「何だよ」
相手を見ることもなくプイッと窓の外に視線を逃がした専務。

「何だよじゃないだ」
勢いよくそこまで言ってから、課長は私の方を見た。

ん?
ああ、

「あの、私は外します」
コーヒーを入れかけていた手を止め、専務室を出ようとした。

「その必要はない」

「へ?」「え?」
課長と私の声が重なる。

「青井君は俺の秘書だろう。席を外す必要はない。それに、今俺はコーヒーが飲みたいんだ」

「・・・孝太郎」
課長の口から小さな声が漏れた。
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