『彼の匂いを消す方法』:検索
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別れは、彼の部屋で告げた。
帰ってこない彼を待つ惨めな私をここに脱ぎ捨てたくて、ここで告げた。
「鍵、一階のポストにいれておくね。さよなら」
 返事も待たずに電話は切った。
 外に出ると通勤帰りのサラリーマンはぽつぽつ駅から出てくる。
 終電まで電車はあと二回この駅を通過する。
 少しだけ静かな駅前で、電車に乗ろうとして気づいたのは、私の服から香る彼の部屋の匂いだ。
 一日、彼の部屋の中で待っていたせいで匂いが染みついてしまっていた。
 昔、タバコを吸っていた時に服に匂いが着かないようにと私が部屋に置いていたアロマディフューザー。柑橘系の匂いを何個か置いていたら、一つ気に入った香りがあったらしい。その香りばかり香るようになっていたっけ。
 
 自分の部屋に彼の名残を入れたくない。侵入させたくない。何もかも、あのマンションに置いてきたかった。
 こんな香りのまま家に帰りたくなかった私は、彼と二回ほど行ったことがあるBAR『aR
t』へ向かった。

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