策士な課長と秘めてる彼女 ~出産編・育児編~
「ごめん、勇気くん、バスタオル持ってきてくれるかな?」

混乱しながらも、日葵は何とか冷静な思考を保とうとして行動した。

警察犬訓練所に勤務していた経験もあり、日葵は犬の出産に立ち会ったことがある。

人間と犬の出産では全く違う。

だからこそ、日葵はその違いに興味を抱き、医学書や雑誌、インターネットを読み漁り、一通りのお産の手順を理解していたのだ。

゛とりあえず、破水したからってすぐにどうこうなる人ばかりではなかったはず゛

日葵はとりあえず、リビングに移動して安静を保ちながら、産婦人科の指示を仰ぐことに決めた。

股をバスタオルで押さえながら、心配する勇気に支えられながらゆっくりとリビングに移動する。

「勇気くん、あのね、赤ちゃんが生まれそうなんだ。これから病院に電話するね?寝室の荷物、持ってきてくれる?」

「う、うん。わかった。でも、だ、大丈夫なの?に、兄さん、まだかな・・・」

勇気が動揺するのは無理もない。

一方で、その様子がかえって日葵を冷静にさせた。

しかし、何度鳴らしても、一向に産婦人科に繋がらない。

受話器が上がっているのか、はたまた電話が込み合っているのか・・・。

段々と不安が込み上げてくる。

これ以上どうすればいいのか、日葵はパニックになりそうになっていた。

゛陽生さん、早く帰ってきて・・・!゛

゛どうしてこんなときにいないの?゛

陽生を責める言葉が頭をよぎる。

不安で不安で仕方がない。

お腹の痛みで下腹部に力が入る。

「えっ?・・・嘘でしょ?やだ・・・待って・・・」

そっと内股に手をやると、濡れたタオルの下に丸くて大きな何かが触れる。

「頭・・・?やだ、まだまだよ。ねえ、待って・・・」

パニックになった日葵は、とうとう叫んでいた。

「陽生さん、助けて」
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