「パパ、ママ、じぃじ、ばあば、柊くん、行ってきます」

「気をつけて行くんだよ。知らない人にはついていかないようにね」

「美暖は可愛いから誘拐されないかと心配だわ」

何かと心配してくる、隣の敷地に住む祖父母の過保護ぶりは生まれた時から健在だ。

美暖の母:日葵は、常にニコニコ。

在宅でデザインの仕事を請け負いながら家事もこなす、そして、警察犬訓練士という裏の顔を持つ美暖の自慢のお母さんだ。

その横には日葵を溺愛する美暖の父:陽生。

父親の目には今日も母しか映っていないように見える。

変わらない賑やかな見送り風景。

美暖にとってはこれは見慣れた生活の一場面だった。

「美暖ちゃん、おはよう」

真島家の有する駐車場に停められた車から、一人の少年が顔を出した。

花菱玲音、10才、小学校5年生。

美暖と同じ小学校に通う美暖の生まれついての幼馴染みだ。

サラサラの黒髪に、漆黒の光彩。

彼は、某アイドル事務所の子役トップスターを張れるといわれるくらいに顔が整っている。

「行こう」

差し出された玲音の手を美暖は戸惑うことなく掴む。

これもここ最近ではルーチンとなりつつある。

向かう先は、玲音の母・蘭の車。

「すみません、蘭さん。いつも送ってもらって」

「あら、いいのよ。未来の嫁を大事にするのは未来投資の一貫だもの」

日葵と蘭は職場の先輩・後輩でプライベートでも仲がいい。

陽生と蘭にいたっては、元の職場の同期で現職場のバディ。

蘭は三石悠馬と並んで陽生の片腕ともいえる存在らしい。

「また、蘭ママ、美暖のこと未来の花嫁とか言ってる・・・」

「本当のことだよ。ほら、遅刻しちゃうから行こう?」

口を歪める美暖に、首を傾げてあどけなさを演出する少年。

彼こそは、美暖の生まれた時から決められたフィアンセ。

アイドル並みの人気を誇る学園の星。

そんな人物と行動を共にするのである・・・。

美暖が玲音と共に学校に登校し始めてから早3ヶ月。

美暖は人知れず人生初の困難?に直面していた。