電話のあなたは存じておりません!
5.あなたの正体

 翌日。五月八日の金曜日。誕生日から丁度一週間が過ぎていた。

「いらっしゃいませ」

 エレベーターホールから歩いて来る人物を見て、由佳と沙奈江が意気揚々と立ち上がる。彼女達に倣い、私も立ち上がった。

「来たよ、来栖副社長」

 隣りから肘でつつかれて、コソッと由佳が囁いた。

 彼の女性秘書さんが受付へ歩いて来る。私たちは綺麗に見える角度でお辞儀をする。

「来栖商事の来栖です。十四時に専務とお約束をしておりますので取り次いで貰えますか?」

「畏まりました」

 真ん中に座った由佳が用件を承り、内線を掛ける。私と沙奈江はその間、座って彼を見ていた。

 ーーこの方が来栖副社長か。

 多分見た事はある。というか、普通に会った事があるような既視感すらわいた。

 それなのに私は、彼を副社長とは認識していなかった。

 わざわざこちらへ出向かれたのは一度か二度しか無いだろうが、もの凄い肩書きとその外見から、私は私とは縁のない人と割り切って記憶に留めなかったんだ。

 滅多と無くてもこうして出向かれる事が有るのなら、今日からはちゃんと覚えておこう。

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