旅行当日。
家を出る前に私の首に掛かるネックレスを外し、蔭木さんはそこから指環を抜き取った。

「今日は知ってる奴に会わないから」

それを、私の左手薬指に嵌める。
自分も同じように左手薬指に指環を嵌めた。

「初めて夫婦として翠と出掛けられる」

目尻を下げて、うっとりと彼が笑う。
結婚を隠していることは、彼にとっても苦痛でしかない。

「忘れ物はないか」

「はい、大丈夫です」

私の手に握られるボストンバッグを取り、蔭木さんは床へと置いた。

「翠。
荷物は必要じゃない」

「えっと……」

日帰りならまだしも、お泊まりですよね?
着替えとか、化粧品とか必要だと思うんだけど。
そういう蔭木さんはその言葉どおり、手ぶらだ。