お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
予期せぬ再会

 高層ビルに反射する夏の終わりの太陽が、容赦なく肌を焼く。私はお弁当の入ったクーラーバッグを手に、ビルの中に入った。


 たくさんのテナントやオフィス、高層階には富裕層向けのマンションも入る複合ビルの8、9、10階に祖父江法律事務所はある。

元々この土地は祖父江家が所有しているもので、十数年前までは、時代を感じさせる立派な石造りの事務所が建っていた。それが、老朽化により維持が困難となり、昨年になって新しい近代的なビルに生まれ変わったのだ。


 エントランスに入り、エレベーターで受付がある8階まで昇る。拓海が言っていたとおり、休日ということもあって、受付は不在。拓海に連絡を取ろうと、鞄からスマホを取り出した。
「あ、拓海? 夏美です。今受付にいるんだけど……」

『待ってて、すぐ行く』

 壁にもたれ、拓海が来るのを待つことにする。


 受付カウンターの横にあるスペースには、フローリストに依頼しているのだろう。華美すぎない上品なアレンジメントが飾られている。

 落ち着きを感じさせるブルーホワイトの壁には、小さな絵画が数点。窓の外には、中庭に植えられたグリーンが覗いていて緊張を和らげてくれる。

 受付のある8階は来客用のスペースになっているのか、オフィスの入り口から相談用の個室が並んでいるのが見えた。そのうちの数部屋はドアが閉まっていて、休日にも関わらず使用中のプレートがかけられている。


 なるほど、拓海はこういうところで毎日働いているのか。感慨深く、あちこち眺めていると、「夏美」と名前を呼ばれた。


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