お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
近づく距離


 拓海と籍を入れて晴れて夫婦となり、私は無事、祖父江夏美となった。


 左手の薬指には真新しいマリッジリングが輝いている。入籍をすませたあと、拓海と二人で拓海のお母さまが懇意にしているジュエラーに行って選んだものだ。

 最初は、マリッジリングなんていらないって思っていた。


「いつどうなるかもわからない契約結婚に、指輪なんている?」

「いるに決まってるだろ。何も知らない他人に、指輪も贈れない甲斐性なしなんて言われるのはまっぴらごめんだ」

「そ、そっか。私ったら考えなしでごめん」

 そうだよね。私の庶民的基準で考えるんじゃなく、もっと拓海の立場になって考えなくちゃ。私と結婚したせいで、彼の評判を落とすようなまねをしちゃいけない。


 拓海曰く、「結婚の報告をすれば、間違いなく指輪のチェックが入る」ということだ。

「指輪なんて、男の人でも気にするもの?」

「気にするやつは気にするだろ。あとは後学のために教えてくれって言って、ってどこの店でいくらで買ったかなんて根掘り葉掘り聞いてくるやつだっているよ」


 なるほど、男性陣は予算のことも考えないといけないから切実だ。


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