嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
その存在に救われていた

 母さんが野沢菜を買いたいと言ったのが始まりで、駅付近で土産を購入する時間を取ることになった。

 母さんと父さん、それに花帆が一緒になってどこかに消えた。俺は興味がないので駅構内にあるカフェで時間を潰している。

 ガラス窓に面したカウンター席からは大通りを行き交う人の流れが見渡せた。ブラックコーヒーを飲んでいると杏太が通り過ぎる。そのまま店内に入ってきた杏太が俺を見つけて目を丸くした。

「隣いい?」

 返事をする前にもう座っている。手には俺と同じアイスコーヒーがある。

「おやきとアップルパイ食べたから苦しい」

 杏太は背筋を伸ばして腹の辺りを両手でさすった。

「おれが持ってきた和菓子も食べたのに、よく腹に入るな」

「最近食欲がヤバいんだよなぁ」

 そう言われてみると顎のラインがふっくらしたように見える。
< 209 / 214 >

この作品をシェア

pagetop