嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
エピローグ

 私は仁くんの和装が大好きだ。

 たったそれだけの理由で神前式にした。

 頭ひとつ上にある凛々しい顔を見つめる。黒羽二重五つ紋付をまとった姿はいつもの数百倍カッコいい。

 ただでさえ緊張しているのに、仁くんを視界に入れる度に胸がキュンキュンと締めつけられて大変だ。

 今朝、会場に向かう前に婚姻届けを出してきた。

 紙切れ一枚を提出しただけだし、正直実感は湧かなかった。だけどこうして式を進めているうちに、どんどん現実が荒波のように押し寄せてくる。

 祝詞が読まれ三々九度の盃を終えると、いよいよ指輪の交換だ。

 仁くんの手によって薬指にきらめく指輪がはめられた。婚約指輪を自分で選んでしまったから、結婚指輪は絶対に選んでほしいと言われたので、本当に私の一存で決めさせてもらった。

 職業柄つけられないのが残念だけれど、おじいさまとおばあさまのように隠居したら絶対に外さないんだから。

 だからどんな年齢にも合う、飽きのこないシンプルなデザインのものにした。

 その方が細くて長い仁くんの指にも似合うしね。
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