嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
甘酸っぱいふたりの夜
 
 仁くんにキスをされた。しかも、あんな濃厚なものを。

 まさに青天の霹靂だ。

 心臓がありえない速さで激しく鳴り、卒倒しそうになっている私とは裏腹に、キスをした後の仁くんはいつも通りのクールでかっこいい表情を崩さなかった。

 キスの最中も涼しい顔をしているのかな。

 見てみたいけれど、キスをしている時に目を開けるなんて高度な技は使えない。

「そろそろ寝ようか」

 仁くんに言われて「うん」と頷く。

 和菓子職人の朝は早い。仁くんはテレビを見たり雑誌を読んだりする時間は最小限にとどめて、いつも時間に余裕をもってベッドに入る。

 おかげで睡眠不足にならずに健康的な生活を送らせてもらっている。私ひとりで暮らしていたらこうはならなかっただろう。

 湿布の匂いが気になるだろうから、ベッドの上でいつもより仁くんから距離を取った。

「どうしてそんなに離れているんだ?」

「湿布が臭いかと思って」

「気にならないから、こっちにおいで」

 胸を一突きされたのごとく、息ができなくなった。

 なにその台詞。もうっ、かっこよすぎてしんどい。

 実際に胸を手で押さえながら仁くんに近寄った。すると腕を掴まれて優しく抱きすくめられる。

 え!? 仁くんどうしちゃったの!?

 昨日までとの仁くんとあまりに態度が違いすぎて、なにかあるんじゃないかと心配になる。
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