小説家の妻が溺愛している夫をネタにしてるのがバレまして…
妄想と現実
「シチューのルー買ってきてたら時間かかっちゃった。遅くなってごめんね」

「ううん!すっごく美味しい〜♪」


本当に相変わらずハイスペックな郁人くんの手料理はどれも美味しい。小説家にあるまじき語彙力の無さだけれど、彼の料理を一言で表すと『とにかく美味しい』に限る。
そう思わせる味。


シチューのお供はご飯だった。
ちなみに郁人くんのご実家はシチューが出ると、必ずフランスパンをお供に選ぶそうで…。


(……郁人くんって意外と献身的…)


などと心の中で思っては、また再びシチューを口一杯に含んだ。


「……あ、材料ないのにシチュー、リクエストしてごめんね。買い物ありがとう」

「締め切りあとちょっとなんでしょ? こういうの支え合うのが夫婦だと思ってるから。気にせず詩乃ちゃんは執筆してて」


柔らかな声音に天使スマイル。


(あぁ…なんて出来た夫なの…)


今日も私は夫にメロメロだ。


でも、そんな私も平和ばっかりだと物足りなくて、多少の刺激が欲しかったりするわけだけども…。


「うん、本当に美味しいね」


程よく低くて腰に響くような声も、笑った時に私を見る丸みを帯びた視線も、全部好きで。


(……『抱いて』なんて言ったら郁人くん困るかな…)


そんなこと、言う度胸も無いくせに。


今日も私は妄想の中で郁人くんとオトナな夜を過ごす。
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