黙って俺を好きになれ
2-1
気が付けば12月。年の瀬。忘年会。・・・またもや苦行が。

お決まりの瑞鳳で飲み放題付きの宴会コース。所長の乾杯の音頭から始まり、送別会と違って立てる主役もない言わば無法地帯。早くから笑い声や黄色い声が賑やかに飛び交う。

いつもどおりテーブルを回って雑用係に徹していたら、エナのところで捕まった。顔は知ってても普段は話す機会の少ない事業部の男性社員に挟まれ、社交辞令でも愛想よく歓迎してもらって足止めを食う。

「あー羽坂さん、こんなとこにいたんですかー」

途中、ふやけた笑顔で筒井君まで雑ざったせいか居心地が悪くもなく。時間が経つのをひたすら待つ苦行にならなかったのは初めてだった。

もっと気楽に羽目を外せたら楽しめるだろうけど、お店に迷惑がかかるとか、社会人としての常識とか、生真面目に考えてしまう性格はどうにもならないかと思う。・・・そう簡単に変われるものでもないんだし。




9時を少し回ったところで中締めになり、預かった会費で私がお会計を済ませた。お店の外に出ると社員が幾つかの塊になって路上を移動していく。たぶん駅の手前のカラオケルームに向かうんだろう。

「羽坂さんも二次会どう?」

「いえ・・・私はこれで失礼します」

律儀に待ってくれていた総務の小田課長に残金の入った封筒を手渡し、丁寧に遠慮して駅に向かい一人で歩き出した。そのままだと二次会組に追いついてしまうから、コンビニに立ち寄って頃合いを見計らう。
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