時の止まった世界で君は

星翔side

「なあ、瀬川。ちょっといいか」

「…はい。」

突然声をかけられ、何事かと思い振り返ると、そこには憔悴しきった顔の染谷先生が立っていた。

「今、手空いてる?……少し相談したいことがあるんだけど…」

「大丈夫ですよ。…どこか、別の場所で話します?」

「うん。そうしよう。」

医局じゃ話しづらい気がして、どこに行こうか迷った挙句、俺たちは屋上に来た。

「先生、話って……」

ベンチに腰掛けながらそう聞くと、染谷先生は言いづらそうに口を開いた。

「…なつのことなんだけどね、…実は……さ………」

「……?」

なつみちゃんのことで何かあっただろうか…

…検査結果が出たとか?

「……俺さ、なつの主治医降りようかと思って。」








「え、」

数秒の思考停止の後、俺の口から零れたのはたった一言 それだけだった。

「…急にごめん、戸惑うよな」

「いや……じゃなくて…」

正直、戸惑いも大きかったがそれ以上に疑問の方が大きかった。

なんで、染谷先生が主治医を降りる?

今までずっとなつみちゃんの傍で診てきたのに?

なつみちゃんのことを一番知っているのは染谷先生なのに?

「………なんで、ですか」

適当な理由ではないと直感的に察した。

染谷先生は、適当な理由でずっと大切に面倒を見てきた子の主治医を降りるなんて真似はしないはずだ。

「それは…」

染谷先生の言葉は酷く重く焦れったく感じた。
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