花屋敷の主人は蛍に恋をする
8話「ハニーティジョン」





   8話「ハニーディジョン」





 3人が病院に到着すると、1人男性が病院の前に立っていた。白衣は羽織っていないものの、社員カードが首にかけられており、この病院の人だとわかる。その男性が紋芽の父親だとわかったのは、紋芽が「父さんっ!」と呼んで駆け寄ったからだ。彼の父親は紋芽に気づくと笑顔を見せたが、その後ろに見知らぬ男女が共に居る事に怪訝な表情になった。

 樹は屋敷の花を盗んだという事は言わずに、「紋芽さんが探しているお花の場所を見つけたので、花束をプレゼントしたのです」と父親に伝えると、彼はとても驚き「ご迷惑をおかけしました」と、何度も頭を下げた。父親は、花代を樹に渡そうとしたけれど「誕生日プレゼントなので受け取れません」と、やんわりと断り紋芽の母親が早く良くなるなりますようにと2人で伝えると、樹と紋芽は紋芽と別れて病院を後にした。


 「紋芽くん、とても嬉しそうでしたね」
 「そうですね。彼が探していた花を見つけられたようで、よかったです」
 「………樹さんは、すごいですね」
 「……すごい、とは?」


 病院の駐車場に戻り車の中で樹と菊那はつい話し込んでしまった。
 それに菊那は少し焦っていたのかもしれない。もう、この時間が終わってしまうという事に。


 「紋芽さんと同じ目線で話して、一人の人として対等に見ていたんだなって。だからこそ、紋芽くんを叱ったとしても、紋芽くんは樹さんの言葉をしっかりと受け止めていたんだなって………。樹さんは、私に手伝って欲しいって言ってくれましたけど……私は何もしていませんでした。出来なかった。樹さんは紋芽くんの心をしっかりと受け取っていて………笑顔まで引き出せて。本当にすごいなって思ったんです」



< 39 / 179 >

この作品をシェア

pagetop