一生ものの恋をあなたと
披露宴会場の4階テラスに出ると、少し海の香りがする。
ここは海辺のホテルだから当然だけど、会場で煮詰まった頭をクリアにするには、落ち着く香りだった。
それにしても、まだまだ残暑が厳しい。
お盆を過ぎたところだ。
あとひと月以上はこの暑さが続くだろう。
年々暑さが後を引いているような気がする。
思ったより、海風がなく、日照りがすごい。

「これは、あまり長く外に出ていられないな。
溶けてなくなっちゃいそう。」

一瞬、自分が溶けて、着付けした型のままの振袖だけが残されているところを想像してしまった。

「…フフフ。」

我ながら可笑しい。

「愛が溶けたら困る。」

「…え?」

振り返ると、さっきから私の心を落ち着かなくさせていた本人がいた。

「…蓮…」

「久しぶりだね。」

「……」

「振袖、艶やかだな。
すごく似合ってる。」

「……」

…どうして声をかけてくるの?
私のこと、振ったのに。

「…愛
俺、愛と話がしたいんだ。
この後、時間…」

「私はないわ。
蓮と話すことはない。
……このままじゃ本当に溶けそう。
中に戻るわ。」

蓮と話なんかしたくない。
まだ、ムリなの。
昔話が出来るほど、傷は癒えてない。

蓮の横を抜けて、テラスの出入り口に行こうとした。

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