かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「ずっと、嘘をついていました」


しばらくくれはの自室には、彼女のすすり泣く声が響いていた。

だけどそれが、だんだんと小さくなる。今はもう、ときどきしゃくり上げる音しか聞こえなくなったところで、私は口を開いた。


「……落ちついた?」


声をかけると、隣に座るくれはが持っていたタオルから少しだけ顔を上げ、赤く潤んだ目のままうなずく。

あれからくれはの自室でふたり揃ってラグに座り込みながら、私は泣き続ける妹の背中をずっとさすっていた。

未だタオルを握りしめて顔のほとんどを隠したくれはが、掠れた声を出す。


「電話ごめん……ことは、出かけてたのに」
「全然いいよ。それより……くれはも今日、瀬古さんと会ってたの?」


私の問いに、目を伏せたままコクリとうなずいた。


「……仕事のあと、ごはん行ってた。もう会わない方がいいってわかってたのに、どうしても、会いたくて」


くれはの職場であるフラワーショップは、毎週日曜日と水曜日が定休日だ。
だから私もその“設定”にならって、奥宮さんとは仕事のあと合流したことにしていた。

きっとくれはの方では、私の休みに合わせて今日は休日だと瀬古さんには言っていたんだと思う。

──『どうしても会いたかった』。彼女の告白に、私はただ下唇を噛むことしかできない。

同じだ。私も、そうだったから。
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