君と優しいバレンタインを
「今年のバレンタインはさ。」
「うん?」
「何くれんの?」
「へっ!?」

 ソファにごろんと転がっていた紗弥は思わず起き上がった。
 付き合ってから2回目のバレンタインが来ようとしている。去年はといえば、昴の好みがわからずにうじうじと悩み、聞くにきけなくなるという大失態を犯した自分を思い出して、少しだけ苦しくなった。

「…何が欲しいとかあるの?」
「別にモノはいつだってそんなに欲しくねーんだよなぁ。」

 物欲がほとんどと言っていいほどなく、気に入った少ないものを長く使うタイプなのだということは、一緒に過ごすうちにわかってきたことだった。

「そうなんだよねぇ…昴くんは物欲が全然ない。だから誕生日プレゼントも悩むし、バレンタインもなかなか閃かない。」
「今年はサプライズがどうのこうのとは言わねーんだ?」
「…言わないよ。だってもらえるってわかってるでしょ?」
「まぁ、何がかは知らねぇけど、何かはもらえるかなーとは。」
「欲しいもの、あげたいんだけどなぁ…。」
「欲しいの、いよいよ今一つだもんなぁ。」
「欲しいものあるの?」
「あるよ。」

 即答だ。しかも真っ直ぐな目でそう言われれば、好奇心が疼く。昴はパソコンをパタンと閉じて、ソファに向かってくる。

「高い?」
「…残念。モノではない。」

 すとんと昴が紗弥の横に腰掛けた。

「……待ってよ、その顔。」
「何?」
「悪いこと考えてるときの顔じゃん。」
「欲しいもののこと考えてるときの顔だけど。」
「待って。」

 いよいよゼロ距離になりそうだ。
< 1 / 9 >

この作品をシェア

pagetop