君は愛しのバニーちゃん



 
「だから、さ……。俺のことは、えガ——ッ!!!?」


(グおぉぉおーーッッ!!! いっっ、てぇぇぇえーーーー!!!!)


 あまりの痛さに、その場で(うずくま)ると悶絶する。


「あっ……。ごめんなさぁ〜い」


 ケバケバしい香水を身に(まと)った女は、まったく悪びれた様子もなくそう告げると、恋人らしき男に腕を絡ませてその場を去ってゆく。

 
「……っ、ちゃん(と前向いて歩きやがれ、クソがっ!)……っ!」


 声にならない声を懸命に振り絞ると、余裕で20cm程はありそうなピンヒールを履いた、ガッツリと背中の開いた服の女の背に向けてガンを飛ばす。
 あれはどう見たって、凶器以外の何物でもない。ズキズキと痛む左足がなによりの証拠だ。


「エガ、ちゃん……?」

「……え?」


 ポツリと呟くようにして落とされた声に視線を向けてみると、キョトンした顔をする美兎ちゃんが俺を見つめている。
 その左手には、取れたてホヤホヤの山田の『うんち』が入ったビニール袋を握っているが……。そんな姿でさえも、愛おしい。
 

(あぁ……。俺の可愛い、うさぎちゃん……)


 左足の痛みも忘れて口元を綻ばせると、目の前の美兎ちゃんを見つめて鼻の下を伸ばす。


「……うん、わかった。『エガちゃん』って呼ぶね!」


(エガちゃんて、誰……?)


 満面の笑顔を向ける美兎ちゃんを見つめながら、(とろ)けた顔のまま暫し考える。
 

(…………。あ……、俺? ……いや、俺の名前……瑛斗だけど……)


 そうは思ったものの、美兎ちゃんの無邪気な笑顔を前にすると、そんなことどうでもよくなってくる。
 結局のところ、美兎ちゃんから名付けてもらえるなら、俺は『うんち』だって何だっていいのだ。それぐらい、うさぎちゃんLOVEだってことには、自分でも気付いている。

 嬉しそうに山田の頭を撫でる美兎ちゃんを見つめながら、新たな名前を授けてもらったことに喜び、健達に自慢してやろうとほくそ笑む。





 ——その後日。
 ことの経緯(いきさつ)を自慢げに話す俺に向かって、散々『江頭○:50』と弄ってきた健達。
 美兎ちゃんにお願いして、結局『瑛斗先生』に戻してもらったことは、言うまでもない。



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