九羊の一毛


なんて読むんだろう。
彼女の名前を見た時、そう思った。

クラス替えってやっぱりわくわくする。
玄関に張り出されたでっかい掲示板を指さしながら、俺は自分の名前を探した。


「おっ、あった!」

「まじ? 岬、お前何組よ」


そう聞いてくる部活仲間は、まだ自分の名前を見つけていないらしい。
三組だった、と返事をして、同じクラスに顔見知りがいないか確認する。


「あ、玄も三組じゃん」


中学が一緒だった男子生徒。一年の頃にクラスが同じで、俺が一方的につきまとっていた。今年もまた彼とつるむことになりそうだ。


「玄って、狼谷のこと? お前よくあいつと一緒にいれるよなー。俺怖くて無理なんだけど」

「んー、まあ結構可愛いとこあるよ。口下手なだけで」

「へーえ……」


白けた目で俺を見つめてくる隣の友人は、「信じられない」と顔に書いてある。

確かに玄は第一印象が決して良くはないし、切れ長な目のせいで、よく「睨まれた」と被害報告をしてくる人も多い。
がん飛ばしやがって、めちゃくちゃ怖えぞおい、と俺も最初は思っていたが、実のところただ眠いだけだったりする。玄は朝に弱い。


「霧島もいるし、九栗もいる……と、これなんて読むんだろ」

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