九羊の一毛
「あ、狼谷くん!」
委員会が終わった後。ここのところ職員室まで一緒に来てくれる彼と、廊下を歩く。
森先生への提出も済んで玄関へ向かう道すがら、私は声を上げた。
「うん?」
僅かに首を傾げた狼谷くん。彼の黒髪が揺れる。
「私、見つけたよ。狼谷くんのいいところ」
そう告げた私に、彼は「え」と目を見開いた。
何で驚いてるんだろう。頼んできたのは狼谷くんなのに。
『俺、まだまだ自分のこといい人だって思えないから、俺のいいところ見つけたらまた教えて?』
数日前の彼の言葉。
狼谷くんはどうやら自信がないらしい。私としてはあの時かなりプレゼンを頑張ったつもりだったけれど、あんまり響かなかったみたいだ。
彼の自己肯定感を上げるためにも、そして彼のことをちゃんと見るという約束を守るためにも、私はこの託された重要な任務を果たさなければならない。……ミッションインポッシブル、みたいな。
「狼谷くんは、真面目だよね」
「え、」
「委員会一回も休んだことないし、今日もこうやって最後までついてきてくれたし……」