お見合い回避のために彼氏が必要なんです
待ち合わせ
 母との待ち合わせ時刻の30分前、私は、駅で早川さんと待ち合わせる。改札を睨みつつ、それらしい人を探していると、後ろから声を掛けられた。

「田代さん?」

慌てて振り返ると、そこには写真で見た早川さんらしき人が立っていた。

高っ!!

プロフィールでは、身長181㎝となっていたけど、181㎝ってこんなに高いんだ。それに、写真では隠されてた口元も、どことなく北村先輩に似ている。

世の中には、こんなによく似た人がいるのね。

そんな風に思いながら、挨拶をする。

「初めまして。田代 清香(たしろ さやか)です。今日はよろしくお願いします」

私が、ペコリと頭を下げると、頭上でくすくすと笑い声がする。私が頭を上げると、早川さんは目尻を下げて楽しそうに笑っていた。

「田代さんは、もう俺のことなんか忘れちゃった?」

その笑顔は、とても懐かしいもので……


「あの…… もしかして、北村……先輩?」

私が恐る恐る尋ねると、

「正解!」

と答えた彼は、くしゃりと私の頭を撫でた。

「あの、でも、プロフィールには早川さんって……」

「くくっ
 相変わらず、すぐに人を信じるんだな。こんなサイトに本名載せるやつなんていないよ。ストーカーとか困るだろ」

そっか。
デートしたら、勘違いする人もいるかも知れないもんね。

「で? お母さんに恋人のふりをしろって?」

しろっていうか……

「はい、お願いします。じゃないと、お見合いさせられちゃうので」

「了解。じゃあ、詳細、詰めなきゃな」

そう言うと、先輩はあっという間に設定を考えてくれた。


 立ち話をしている間に、時間は過ぎ、改札から母が出てきた。

「清香!」

歩み寄る母に、先輩は爽やかに声を掛ける。

「こんにちは。清香さんのお母さんですか? 初めまして。清香さんとお付き合いさせていただいてます北村と申します。よろしくお願いします」

どこからどう見ても好青年だ。

「まあまあ、今日はわざわざごめんなさいね。この子、昔からぼーっとしてるから、東京で変な男にでも捕まってるんじゃないかと心配で」

それを聞いた先輩は、私を見て、くすりと笑った。

「分かります。すぐに人を信用するので、いつか誰かに騙されるんじゃないかと心配になります。でも、そんな素直なところが、可愛くて好きなんですけどね」

優しい目で見つめられて、目のやり場に困る。さらっと好きなんて言われたら、私はどうすればいいの?

「まぁ! 清香、良かったわねぇ。こんな風に欠点まで褒めてくれる人、なかなかいないわよ」

母は、ドン!と私の背中を叩く。

「痛いよ、お母さん。とりあえず、レストラン予約してあるから、行こ」

私は、この空気から逃げ出したくて、先頭に立って歩き始める。すると、隣からスッと伸びてきた手に右手を握られた。焦って見上げると、先輩はにっこり笑って指を絡める。

どうしよう。
こんなの予定にないよ。

だけど、後ろにいるお母さんの手前、その手を解くわけにもいかず、私は右半身をカチンコチンに硬直させながら、徒歩3分のレストランへと向かった。

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