春の暖かな日差しが差し込む病院の中庭に理花はいた。主治医の草野に無理やり連れ出されたのだ。
この病院に転院してからほとんど言葉を発さなかった理花も少しずつだか草野とだけ話をするようになっていた。

「今日は外が気持ちいいね。桜も満開で、出てきて正解だったろ?」

「・・・・・・・・」

「はははっ、そうか、嫌だったか。でもそのねこちゃんはきっとひなたぼっこが嬉しいんじゃないかな?」

草野は理花の手元を見て言った。
理花は兄の陽人から受け取った猫の人形をいつも握っていたのだ。

「この猫ね、恭ちゃんに似てるの。」

穏やかな笑顔で猫を見つめる理花を見て草野は少し驚いていた。
理花の口から時々聞かされる『恭ちゃん』の存在は把握していたが、理花にとってどのような存在なのか掴み兼ねていたのだ。

「理花さんは恭ちゃんが好きなんだね。会いには来てくれないのかな?」

理花はまた無表情に戻り頭を横に振る。
それからは草野が恭吾に関する質問をしても一切答えなかった。

「恭ちゃんかぁ、僕も会ってみたいなぁ。」

草野は桜を眺めながら独り言のようにつぶやいた。

「恭ちゃんはもう綺麗な世界に帰ったの…」

「へぇ、綺麗な世界ってどんなところ?」

「汚れのないキラキラと眩しいところ。」

「じゃあ理花さんがいるところは?」

「……ドロドロと汚くて臭いところ。」

「じゃあ恭ちゃんのいる綺麗な世界には行かないの?」