モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
幸せと、崩壊
 寮にいつの間にか飾られていたクリスマスツリー。どこもかしこも緑と赤の組み合わせに溢れ、流れる音楽もクリスマスソングばかり。
 クリスマスに意中のひとを射止めたい、クリスマスを機に気になるひとに近づきたいなど、悩み相談まですべてがクリスマス一色になっていた今日この頃。
 サロンは大盛況で、タロットカードは使い込みすぎて擦り切れてきた。
 食堂ではマルトさんと十二月限定のメニューを考えたり、おにぎりの新作を試してみたりと、充実しすぎた毎日を過ごしていた。

 そしてついに、今日はみんなが待ちに待ったクリスマスパーティーの日。

 寮生たちは制服から煌びやかなドレスやタキシードに着替え、意気揚々と会場へ向かっていく。イベント開催時には使用人を呼ぶことが許可されているので、みんな優秀な使用人の手によって、普段より素敵な姿に変身を遂げていた。
 こういったとき、肩身の狭い思いをするのは庶民の生徒だ。実際に、〝パーティーに参加する際の衣服に困っている〟、〝高価なものを身に着けていないことで、以前のパーティーで馬鹿にされた〟などの相談も、ここ最近サロンで受けてきた。
 パーティーは豪華な会場に食事が並び、いろんな交友関係を結べることも可能な贅沢な時間だ。自由参加とされているが、事情もなく自ら参加を拒否したいと思う生徒などほとんどいないだろう。
 私はそういった相談を受けたことを何気なくマルトさんに話した。すると、マルトさんが学園や知り合いの中から有志者を募り、庶民の生徒限定でドレスアップに協力してくれることになったのだ。
 例えおさがりの衣服だとしても、貴族さながらの姿にみんなうれしそうにしている。
いつもより伸びた背筋でパーティーへ向かう、この停学期間ですっかり仲良くなった庶民の寮生たちを、私は笑顔で見送った。私と同じく、今までいい思い出はなかったパーティーだろうけど、今日は素敵な一日になるといいな。

「フィーナ! 本当に参加しないつもり!? あなたも一緒に行きましょうよ!」
「そうよ! アナベル様はフィーナとパーティーに参加するのを楽しみにしていたのよ」
「私たちもフィーナと一緒にダンスたおしゃべりを楽しみたかったのに……」

 寮から会場へ向かうみんなを見送っていると、後ろからアナベルとその取り巻き、カロルとリュシーに話しかけられた。

「あはは……お気持ちはありがたいですけど、私は停学中の身。パーティーへの参加は許されていないんです」
「なによそれ! パーティーくらいいいじゃない! 校長ってばケチなお方ね! あなたたちもそう思わない?」
「まったくもってその通りですわアナベル様!」
「私もそう思います! アナベル様!」

 アナベルの言葉に、カロルとリュシーは腕を組んでうんうん、と頷く。参加できない当事者である私より、アナベルのほうがそのことに不満を抱いているのがなんだかおもしろい。
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