最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
そのとき、私は初めて少しだけ後悔した。この行為を彼との思い出にするどころか、好きだという想いは膨らむばかりで〝離れたくない〟と心が叫んでいるから。

想像以上だった。好きな人と身体を重ねることが、こんなにも愛しくて幸せなものだったなんて。

……でも、もう遅い。一度だけでいいと望んだのは紛れもなく私で、今さら離婚話は撤回できない。

それになにより、慧さんには私への愛情はない。終わりを告げたからこそ、ひとつになれたのだ。

彼の指が絡む手に力を込め、これでよかったんだよと自分に言い聞かせる。そんな私の耳に、やや呼吸を荒くした低い声が吐息交じりに囁く。


「一絵……忘れるなよ、俺に抱かれたこと」


快感と涙を堪えて閉じていた目をうっすら開くと、心なしか切なげな表情で私を見つめる慧さんがいた。

彼がどんな心境でそう言ったのか、私には紐解くことはできない。けれど、忘れることなど不可能だ。

頷いた直後、彼は我慢できなくなったかのように動き出し、大きな快感の波に襲われた私はもうなにも考えることができなくなった。


最初で最後の夫婦の営みは、とても情熱的で、とても切ないひとときだった。

この夜を、あなたもどうか、忘れないでいてほしい。


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