最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
一度だけと望んだ一カ月

 * * *

開放感のある大きな窓から、幻想的で美しい夜景が広がる高層マンション二十五階の一室。ふたりでは余裕がありすぎるダイニングテーブルに、私は緊張して座っている。

ふわりとしたボブの髪を耳にかけ、小さく深呼吸すると、向かい合って座る主人に一枚の用紙とペンを差し出した。


(けい)さん、こちらにサインしていただけますか?」


意を決して仕事の書類のように渡したそれには、緑色の文字で〝離婚届〟と記されている。私はすでに記入してあり、彼のほうもこれからすぐに埋められるだろう。

この話を切り出すのを四月二日の今日にしたのは、嘘や冗談だと思われないようにするためだ。

目の前の彼は切れ長の瞳で用紙を見つめたあと、特に動揺した様子はなくゆっくりこちらに目線を上げた。

緩くうねるミディアムヘアに、中性的でありつつもクールな男性らしさを感じる顔立ち、そこはかとなく醸し出す余裕と冷静さ。確実に世の女性を惹きつける魅力的な彼に見つめられると、もれなく私も胸がざわめく。


「俺との生活に嫌気が差したか」


特別感情がこもっているわけでもない声を投げられ、私はぷるぷると首を横に振る。
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