最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
相変わらずのほほんとした麻那に図星を指され、さらに脱力した。

不器用というか、浅はかというか。自分から潔く別れようとしておいて、今こんなに優柔不断になっているのだからほとほと呆れる。

自業自得がすぎる……と悔やんでいると、麻那が私の背中をぽんぽんと叩き、穏やかな声で諭す。


「好きな人に優しくされたり、触れられたりしたら、臆病にもなるでしょう。社長のそういう一面を知らずに離婚話をしたわけで、それについては仕方ないと思うし、今ひとちゃんの気持ちが揺らぐのもある意味当然だと思うよ」


自分のもやもやとした胸の内を代弁してもらえて、少しだけ心が軽くなった。

理解のある親友に感謝して、ようやく顔を上げると、彼女は腕を組んで私の代わりに悩んでくれている。


「問題はどうやって離婚を撤回するかだよね。まあ、旦那様の気持ち次第なんだろうけど」
「はあ……やっぱり聞いておくべきだったー」


結果悔やむことになり、再びおでこをくっつける私に、麻那は「ループ……」とつぶやいて苦笑した。

しばしその状態でいたら、頭の上にコツンとなにかが当たった。ぐりんと首を回して上を見上げると、両手にコーヒーの紙コップを持った高海がいる。
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