雪哉はアメリカに移住した当初、英語が全く話せずコミュニケーションの面で相当な苦労を強いられた。だが人間の慣れとは不思議なもので、半年も経たないうちに周囲との会話に困らない程度には英語が話せるようになった。

 その2年後には学業にも支障がないほど語学力は上達し、更に1年後には全科目を通して成績優秀者としてクラスで名前が挙がるほどになった。

 移住してから約9年後、大学卒業と同時に単身日本へ戻ってきた。

 日本に戻ってきて最初に行ったことは、就職活動だった。雪哉は特別手に職がある訳ではなかったので仕事探しにも苦労したが、自分にネイティブと同じ英語力がある事に気付いてからは、すんなりとやりたい仕事が見つかった。

 通訳の仕事は語学力とコミュニケーション能力はもとより、洞察力や情報処理能力も必要とする。けれどそれが自分に合っている事に気付くと、そのうち仕事に楽しみを見出せるようになった。

 仕事が落ち着いた頃、ようやく愛梨を探し始めた。そもそも両親がアメリカに移住しているにも関わらず、わざわざ日本に戻ってきたのは幼馴染みの愛梨に会いたかったからだ。


『愛梨。俺、絶対に愛梨を迎えにくるから。待ってて』

 雪哉は日本を発つとき、ずっと好きだった愛梨にそう約束した。

 後から考えれば随分思い切った約束をしたと思う。自分なりに必死で想いを伝えたし、十分本気のつもりだった。だが中学生というのは大人でも子供でもないどっちつかずな年齢だったから、愛梨が本気にしてくれる自信はなかった。

『私も、ユキのこと、ずっと待ってる』

 けれど愛梨は少し困った顔をしながらも、雪哉を待つと約束に応えてくれた。