約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 吃驚した。
 本当に会いたくて会いたくて仕方が無かった幼馴染みが、すぐ傍にいる事を急に実感する。昨日挨拶で各部署を巡った時には一切会えなかったので、エレベーターの中で見た愛梨は幻だったのではないかとさえ思っていたから。

 どうせ昼食も摂らなければならないし、それならいっそ傍に座って愛梨に話しかけようと思い、カフェの中に入る。

 雪哉の入店と同時に、愛梨の向かいに座っていた女性が席を立った。このまま2人が出て行ってしまうかと焦ったが、席を立ったのはその女性だけで、愛梨の目の前にはまだサンドイッチが1つ残されていた。

 雪哉もブレンドコーヒーとクロックムッシュを注文すると、さり気なさを装って愛梨のいる席に近寄り、名前を呼ぶ。顔を上げた愛梨は、雪哉の顔を見ると明らかに驚いたように目を見開いた。

「……ユキ…」
「あぁ、やっぱり愛梨だ」

 驚きつつも昔と同じように雪哉の名前を呟いた愛梨に、ほっと息を吐く。5年間探し続けた苦労が、たった2文字の呼び名で全て報われた気がした。

「この前名前呼んだのに反応なかったから、間違えたのかと思った」

 愛梨と会話出来ていることさえ、内心ではすごく嬉しいと感じる。けれどそれを全面に出して喜べるほど無邪気な年齢ではないので、努めて平静を装う。

「久しぶりだな」
「あ……うん。…久しぶり…」

 昔と同じく接しているつもりだったが、愛梨の表情からは小さな動揺を感じる。もちろん、雪哉もそれなりに動揺はしている。けれど愛梨の姿を見つけ、メニューを注文し、ここに辿り着くまでの間にかなり心の準備をしたので、今の驚きの度合いで言えば、愛梨ほどではないと思う。
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