「ここ座ってもいい?」
「………うん」

 訊ねると少し間を置いて愛梨が頷いた。一瞬『嫌なのか?』と思ったが『それなら止めよう』と言う結論にはならない。なる筈がない。

「本当に久しぶりだ。元気だった?」
「うん」

 腰を落ち着けて訊ねると、今度は素直に頷いてくれた。雪哉と会話をする事自体が嫌な訳ではないようで安心する。

 正面から愛梨の顔を見つめると、記憶の中にいた愛梨が急に大人びている事に喜びを感じたが、同じぐらいの焦りも覚えた。雪哉が想像していたよりも、ずっと女性らしく、可愛らしくなっている。

 想像通りといえば、髪形ぐらいだ。昔からずっと同じショートカット。細い首から鎖骨のラインが際立ち、見ているだけで惹き込まれるような、無邪気さと危うさが入り交じるフォルム。

「ユキも元気そうでよかった。おじさんとおばさんは元気?」

 そんな焦りなど知る由もない愛梨は、雪哉の顔を見ながら郷愁にかられたように訊ねてきた。雪哉の事を嫌がったように感じたのは勘違いだったのか、顔を覗き込んでくる愛梨の表情は昔と同じように柔らかくて明るい。

「多分な。日本に来るとうるさいから、最近はあんまり会ってないけど」

 一度コーヒーを飲んで、呟く。
 雪哉の父も母も勤め人ではないので、まとまった暇を見つけてはよく日本に遊びに来ている。名目上は雪哉の様子を見るためらしいが、息子の顔など1時間で見飽きて、いつもジャパン文化を満喫したら土産を抱えてさっさとアメリカに戻っていく。

 ハリケーンのような両親の相手をすると心身ともに疲れるので、ここ数年は来日しても連絡のみで、会わないことも多かった。