約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

「探し続けるのも、待ち続けるのも、辛いだろ。だから愛梨が早く忘れられるように、努力する」

 真面目な声で愛梨の迷いを打ち消すことを宣言した弘翔に、愛梨は静かに戸惑った。

 これまでの15年間、愛梨に好意を寄せる異性がゼロだったわけではない。だがその全てをやんわりと、時にきっぱりと断り続けてきた。それはもちろん、雪哉との約束があったから。

 けれどもう、愛梨は待つことが無駄である事に気付き始めていた。雪哉との約束どころか、会うための手段すら持ち合わせていない現実を知り、約束を果たす事を諦めかけていた。

 完全に諦めたのかと問われれば頷ける自信はない。だが27歳になり、仲が良い同期の花嫁姿を羨ましいと思ってしまったのが紛れもない事実なら、徐々に夢から現実へシフトしていっても良い頃合いだ。
 今まで15年、待ったのだから。

「……弘翔。ありがとう」

 愛梨は弘翔の告白を受け入れることで、約束の呪縛から音もなく解放された。

 雪哉に対して申し訳ないと思う気持ちと、自分の本当の気持ちと、安易に出来ない約束をしてそれを果たせない罪悪感がわずかに背中をノックする。

 だが振り返っても、そこには結局誰もいないし、何もない。

 だから雪哉との約束でさえ、本当は約束でもなんでもなかったのかもしれないと思ってしまう。あれはきっと何かの夢で、愛梨の妄想で、雪哉の戯言だった。

(きっと、そうなんだ)

 愛梨は小さく息を吐くと、目の前で愛梨を見つめる弘翔ともう1度目線を合わせる。
 弘翔がそっと手を差し出すので、愛梨は少しの躊躇いと気恥ずかしさを合わせた笑顔で、弘翔の手の上にそっと自分の手を重ねた。
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