花鎖に甘咬み

奇妙なおよばれ


× × ×


【 SIDE/ 北川ちとせ 】




伊織さんのお店から出たあとは、真弓が〈薔薇区〉をぐるっと一周案内してくれた。



知れば知るほど、〈薔薇区〉は変なところだと思う。お昼なのに、窓も扉も閉ざされた建物が多くて、人の気配もほとんどしない。薄暗くて、不気味な空気で満たされていて、どこからかぬっとオバケが登場してもおかしくない感じだ。


肝試ししているような気持ちだった。
真弓がいなかったら、怖くて足が動かなかったかもしれない。



〈黒〉のひとたちのグループにも何度か遭遇しかけたけれど、そういうときは真弓がすぐに気配を察知して道を変えてくれたから、ご対面せずにすんだ。



カンが鋭いというか、鼻がきくというか……。
そういうところは動物っぽくて、真弓が〈猛獣〉と呼ばれるのもわかるような気がする。強いのも、わかる。



「ちとせ、夜、なに食いたい?」

「なんでもいいの?」

「ああ。作れるもんならな」

「えっ! 真弓が作ってくれるのっ?!」



驚いて、目を見開く。
てっきり、また外食するのかと思ってたんだもん。


昨日の夜はお寿司、朝食は伊織さんのところで、昼食はさっき〈薔薇区〉を案内してもらっている途中で、露店で買い食いしたの。


はじめてたこ焼きを食べたら、これがすっごく美味しくて感動モノだった。って言ったら、「安上がりなオジョーサマだな」と真弓に鼻で笑われた。


それから、歯に青のりをつけたままなのに気がつかなくて、もっと豪快に笑われた。
あのときの真弓、すっごくイイ笑顔だったな、悔しい。



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