強引な無気力男子と女王子

突然の来客

 「えっと、百華、さん‥‥‥?」
 「そう、それそれ!」
 突然の来客に戸惑う私を置いて、「百華」ははしゃぎ始める。
 「最近になって、悠理、やっと百華って呼んでくれるようになったんだ〜!本人はぁ、「百華って呼べって言われるのもうめんどくさいし、うるさいから」って言ってるんだけど、きっと照れ隠しだと思うんだ、私!」
 「はあ‥‥‥」
 話についていけない。
 「真紘、いつのまに奥江百華と仲良しになったの?」
 日葵はそう耳打ちしてくる。
 知らないよ、私だって。
 この合宿で初めて知ったし。
 百華さんは日葵のほうを見て貼り付けたような笑顔で「ちょっと、外に出てくれるぅ?」と言う。
 日葵も日葵で「あ、うん!」とだけ言って駿樹さんを連れて部屋を出て行ってしまった。
 何を話したらいいのかわからなくて、黙る。
 日葵たちを部屋から追い出したのにも関わらず、百華さんも黙る。
 必然的に、沈黙が広がる。
 「えっと‥‥‥」
 「ねぇアンタ、悠理のなんなの?」
 「え‥‥‥」
 気まずさに耐えきれずに発した言葉は、百華さんのさっきまでとは打って変わった低い声に遮られた。
 何、って言われてもなあ‥‥‥。
 仕事仲間としか言いようがない。
 でも、モデルの仕事のことを部外者に話してしまっていいのかと考えると、なかなか話せない。
 黙ったままの私を見てイラついたのか、百華さんは自分で切り出した。
 「私、アンタと悠理がキスしてるところ見たんだけど」
 「‥‥‥‥‥‥!」
 予想外の言葉に私は固まる。
 見られてた?
 固まる私を尻目に百華は喋り続ける。
 「どうせ、あんたが無理矢理悠理にキスしたんでしょ?王子とか言われてるけど、ただの男好きじゃない。顔が良くて、ちょっと有名だからって調子に乗らないでね。というか、私の悠理に金輪際近づかないで」
 ものすごい剣幕でまくしたてると、百華は最後に私を睨んで乱暴に部屋を出て行った。
 ‥‥‥突っ込みどころ満載なんだけど。
 無理矢理キスなんてしてないし!
 王子とか言われて調子にも乗ってないし!
 男好きでも断じてないし!
 あと‥‥‥「私の悠理」って‥‥‥。
 そういう、ことだよね。
 つまり百華と悠理は付き合ってて。
 それなのに悠理は私にキスして。
 何故かズキズキと胸が痛む。
 ‥‥‥べ、別に私は悠理と誰が付き合っててもいいし!
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