強引な無気力男子と女王子
 そう、これは恋人がいるのに私にキスしてきた悠理に軽蔑してるだけなんだ。
 自分にそう言い聞かせる。
 1人で悶々としていると、またドアが開く音がした。
 日葵かな?
 私のベッドからは死角になって、ドアが見えない。
 でも、きっと日葵だろう。
 私はベッドを降りて、扉に近づく。
 「ひま‥‥‥」
 そこまで言いかけて、私は目を見開いた。
 「真紘」
 そこにいたのは私の悩みの種で。
 でも、私を助けてくれた人物で。
 「体調、どう?」
 私は驚いて、なかなかその質問に答えれなかった。
 「‥‥‥真紘?」
 悠理は不思議そうな顔で私を見ていた。
 「なんで‥‥‥」
 「なんでって、お見舞い」
 ううん、そんな事どうでもいい。
 「どうしてここにいるの!?彼女のところへ行ってきたらいいのに!私にキスしたのも、どうせただの気まぐれで遊びなんでしょ!?なのに、なんで来るの‥‥‥!?」
 気づけば私は、そう悠理に怒鳴っていた。
 「助けてくれてありがとう」って言わなきゃいけないのに。
 怒りのほうが勝ってしまった。
 泣きたくないのに、泣く理由もないはずなのに勝手に涙は溢れる。
 悠理は黙ったまま。
 私も口を閉じ、沈黙が広がる。
 でも、怒りはおさまらない。
 涙を見られたくなくて、俯いた。
 「‥‥‥彼女?」
 しばらくして、頭上から聞こえたのはそんな言葉だった。
 何よ、この後に及んでまだとぼけるの!?
 「奥江百華のこと!」
 「いないけど」
 私の怒鳴り声と、悠理の不思議そうな声が重なって聞こえた。
 「‥‥‥え?」
 「‥‥‥は?」
 2人共、相手が何言ってるのかわからない、というような顔をして固まる。
 「さ、さっき、奥江百華が来たの。で、『私の悠理』って。‥‥‥付き合ってるんじゃ、ないの?」
 「別に奥江とは付き合ってないけど。奥江が勝手にそう言ったんでしょ?」
 「そ、そうなの?」
 そこで、私は気づいた。
 呼び方が百華じゃなくて、奥江だ‥‥‥。
 どうやら私は盛大な勘違いをしていたみたいだ。
 それなのに悠理に怒鳴ってしまって、申し訳なさでいっぱいになる。
 「ご、ごめ‥‥‥」
 「真紘、それ、俺と奥江が付き合ったら嫌だってこと?」
 え‥‥‥?
 悠理が何を言ってるのかわからなくて、フリーズする。
 私が?
 「違う‥‥‥」
 「ふーん、まあいいや」
 
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